【感想】『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ〜平成の30冊から〜

朝日新聞から識者が選んだ「平成の30冊」という記事があがっていました。

30冊の中、1/3ほどは読んでいましたがTOP3は全て未読。中でも気になったカズオ・イシグロ氏の『わたしを離さないで』をこの機会に読んでみました。

そういえば2017年、今度こそ村上春樹ノーベル文学賞を取るのではないかと期待されている中で受賞したのがカズオ・イシグロ氏でした。ハルキニストががっかりする反面、日系イギリス人の同氏の受賞に皆んな興味津々、本屋では急遽特設コーナーが設けられているニュースを見たのを覚えています。

私は村上春樹の小説はあまり好きでは無いので、この時初めて知ったカズオ・イシグロ氏の方に興味があり、いつか読まないとなと思っていながら3年も経ってしまっていました。

 

感想(ネタバレあり)

読み初めは文章の不自然さから、あれ…なんか合わないな、という印象。海外の小説は翻訳のクセが強いことがあるのでそのせいかと思いつつ読み進めていくと、ちゃんと計算された構成だったようですぐに内容に引き込まれていきました。

微妙な心理描写がとても上手く、特に幼少期の主人公とルースの関係はザ・女友達といった付き合い方で、男性のカズオ・イシグロ氏は何故女の面倒な心理がこんなにも分かるのだろうと…

贔屓されている先生にもらったプレゼントだとさりげなく嘘をついて優越感に浸るルースと、その鼻を折ってやろうとする主人公、しかし鼻を折った後に残ったのは何故こんなことをしたのかという後悔…この感じ、誰もが子供時代に経験したことがあるんじゃないでしょうか?自分と同じように感じることができ、何ら変わらない人間である主人公達がクローンで、臓器提供のために作り出された存在であるというのはとても考えさせられました。

この小説はカテゴリーではSFに分類されるのかもしれませんが、序盤からの青春物語に徐々にSFが混ぜ込まれていく不気味さがとてもうまいです。内容自体は陳腐に感じられるものかもしれませんが、序盤のリアリティある青春懐古からクローンや臓器提供という核に触れていくことで一気に現実味のある世界観が作られています。

何かを犠牲にして今の豊かな生活があり、臭いものに蓋をするごとく負の面には真正面から向き合わない現代の生活をもって考えると、「平成の30冊」に選ばられるのも納得でした。

 

他に 「平成の30冊」の中では、宮部みゆきの「火車」、高村薫の「マークスの山」がオススメです。それぞれ名作が多い著者ですが、「平成」縛りではこの2冊が選ばれているのも納得でした。

火車 (新潮文庫)

火車 (新潮文庫)

 
マークスの山(上) (新潮文庫)

マークスの山(上) (新潮文庫)

  • 作者:薫, 高村
  • 発売日: 2011/07/28
  • メディア: 文庫