中野京子「怖い絵 死と乙女篇」

中野京子氏の「怖い絵」に続き、「死と乙女篇」も読んでみました。

怖い絵に比べ全体的にインパクトのあるエピソードが少ない気がしましたが、時代背景や歴史を絡めての文章はさすが中野氏だなという印象です。

気になった絵は以下。

レーピン「皇女ソフィア」

レーピンという画家は「怖い絵」の”イワン雷帝とその息子”で初めて知りましたが、この絵も中々インパクトがあります。ロシアの女帝といえばエカチェリーナ大帝ですが、それ以前にこのソフィアという女性が女帝という位についていたことは初耳でした。例え短い期間であっても、女性としてここまでのし上がることは当時の時代背景から考えて容易なことではなかったはず。破格な女性であったことが絵からも伝わります。

ホガース「ジン横丁」

世界史の教科書に出てくる「囲い込み政策(エンクロージャー)」ですが、そのワードは知っていても、その結果何が起こったのかということは記憶が曖昧のままでした。教科書にこの絵が載っていれば、歴史が単に暗記なのではなく、ありありと生きた当時の情勢を思い描くことができたと思います。

囲い込み政策によって土地を失った農民が都会に流入、貧困街で安酒のジンをあおり堕落していく…この絵一枚で当時のイギリスの状況が想像できます。貧困から抜け出すことができず、日々の苦しい生活を安酒で紛らわそうとうするのはどの時代にも共通する問題です。

また現代ではお洒落なカクテルにも使われるジンが、かつては安酒で社会問題にもなっていたことは驚きでした。確かにジンは比較的安くてアルコール度数も高いので、当時の時代背景も相まって貧困層の間で爆発的に流通が広まったのでしょう。その後タンカレー社(今でもよく見かける緑のボトルに赤の紋章!)が高級ジンを売り出し、そこからジンのイメージが払拭されたのだとか。 

シーレ「死と乙女」

元々ルネサンス期の絵画が好きだったのでそれ以外の時代の絵にはあまり興味が持てなかったのですが、クリムトの作品を生で見る機会があり、大いに感銘を受けました。ウィーン分離派の絵はぱっと見クセが強いのですが、見れば見るほど惹きつけられる魅力があります。

エゴン・シーレクリムトの弟子だったそうで、俗にいうイケメンですがその一生を見るとかなり変わった性格だったことが伺い知れます。驚いたのは28歳という若さで当時流行したスペイン風邪により亡くなっていたということ。シーレがもし生きていれば、第一次世界大戦に突入する暗い歴史の中でどんな絵を描いたのだろうか。