中野京子「怖い絵」

中野京子さんの本は何冊も読んでおり、絵画から歴史や時代背景を読み解くシリーズがとても面白い!

特にウィーンに行く前に購入した「名画で読み解くハプスブルク家12の物語」は何度も読み返しており、ヨーロッパ史に興味を持つきっかけにもなった本です。

 

「怖い絵」は、表紙の”いかさま師”からしインパクトが強い一冊です。作品の中には少し??と思うようなものもありましたが、全体として中野さんの知識や絵画の紐解き方に改めて感心しました。

興味を惹かれた作品とエピソードは以下。

 

ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」

マリー・アントワネットといえば華やかに着飾った絵画しか見た事がなかったので、この処刑される直前の最後の肖像には驚きました。

当時の処刑は民衆の前で行われておりそれが一つのエンターテイメントとなってたようです。今まで絶対的だった立場の人間が民衆の前に姿を現し、処刑される。さらにそれが国費を使い込んでいた憎むべき人間だった時、民衆の興奮はMAXでお祭り騒ぎのように。

残酷な処刑を見にわざわざ集まる感覚は長らく分からなかったのですが、歴史物の海外ドラマの中で処刑シーンがあり、それがマリー・アントワネットの処刑シーンと重なり妙に納得しました。民衆の興奮や、処刑される人間の屈辱感が肌で感じられました。(ゲームオブスローンズ、サーセイの処刑シーンですが刺激的な内容なので注意です。)

 

ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」

ブリューゲルが好きなのでこの暗い作品の解説にも惹かれました。絞首台・かささぎ・踊る農民の関係がとても深いです。かささぎは日本では幸福の鳥ですが、ヨーロッパでは正反対で不吉で密告者の例えにも。宗教改革の影響を受け密告による魔女裁判が頻発していたネーデルランドの当時の暗い情勢を絡めて見ると、陽気そうに踊る農民もどこか薄気味悪い。

一見ネーデルランドの穏やかな街並みを描いた作品に見えますが、ブリューゲル作品の奥の深さを味わうことができました。

 

ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」

言わずもがなインパクトの強いゴヤ作品です。作品よりもゴヤの一生に興味を惹かれるエピソードでした。暗い時代のスペインでゴヤが何を見てきたのか。しかしその経験によってこれだけの作品が生まれたのは皮肉な事だと思います。精神病に侵されて描き続けていたムンクも然り…。

 

グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」

ゴシック絵画はあまり興味がないのですが、この作品はエピソードを読んで初めてその魅力に気がつきました。テレビや映画もない時代、疫病に苦しんだ人がたどり着いた教会でこの絵を見た時の感動を想像します。

奇しくも現在はコロナウィルスが世界中で蔓延しています。ペストやハンセン病などの疫病は自分にとって教科書の中の一行に過ぎませんでしたが、目に見えないウイルスによって人が亡くなりパニックになっていく過程を現実のものとして体感する日が来るとは思いもしませんでした。さらに医療や科学が発達していないかった中世では想像出来ない絶望が人々を襲っていたのか、その中でこの絵画はどれほどの希望だったのか。

イーゼンハイムの祭壇画はフランスのウンターリンデン美術館にあるそうです。いつか見に行ってみようと思いました。